居酒屋「和民」などを展開するワタミフードサービス(東京都大田区)の一部の店舗で、労働基準法で定められた労使間の手続きを踏まずに従業員に時間外労働をさせていたことがわかった。同社は「全店舗で適切な労使協定を結ぶよう徹底したい」として、系列の全店舗で労使手続きの実態を調べるとしている。
労基法は、労働者の労働時間を1日8時間、週40時間以内と規定。使用者がこれを超えて働かせる場合は、労働組合か、労働者の半数以上の代表者と協定を交わして時間外労働の上限を定め、労働基準監督署に届け出る必要がある。
同社によると、同社には労働組合はなく、店舗ごとに毎年、従業員側と協定を締結。従業員内での挙手や店舗の会合などで労働者代表を選出し、協定を結ぶ決まりだったという。しかし、一部店舗では、店長が従業員の中から代表を指名。時間外労働の上限時間があらかじめ記載された協定届に署名させていたという。
名ばかりの三六協定を交わしている企業は、ワタミフードサービスに限らない。
労働基準監督官OBでコンサルタントの原論(さとし)さんは「年間約百件を監督する中で二割程度、手続きに不正があった。労働組合のない企業では特に、不正に代表者を選出している例は多い」と話す。
森さんの代理人の堤浩一郎弁護士が以前に手掛けた例では、会社が協定届をねつ造。本人に無断で代表にして署名押印していた。
代表の選出方法について、中小企業を対象にした独立行政法人「労働政策研究・研修機構」の2006年の調査では、会社側が指名した企業が28.2%、親睦会などの代表者を自動的に代表とした企業が11.2%。中小企業の約40%で違法な手続きが行われている実態が明らかになった。
一方、労働組合があっても、労使協調から協定締結を拒否する例はほとんどない。システム開発会社「エスシーシー」(東京)で過労死した男性システムエンジニア=当時(30)=の両親は〇四年、「会社と協議もせず、長時間労働を避ける義務を怠った」として組合も訴えた。翌年、和解が成立し、組合は労働条件の向上に努めると約束した。
入社二年目の〇八年十一月、過労自殺した男性=当時(24)=が勤めていた大手石油プラント「新興プランテック」(横浜市)では、月の時間外労働の上限を二百時間とする三六協定を労働組合と結んでいた。
男性は亡くなる四カ月前、月218時間も残業。遺族は昨年、「会社への適切な指導を怠った」として労基署も相手取り、提訴した。代理人の原宏之弁護士は「労基署や労働組合が守らずに、誰が労働者を守るのか」と憤る。